文化系の日々

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写し鏡 / デザイナー 渋井直人の休日

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relax時代から渋谷直角さんの文章が好きで、直角さんとせきしろさんの文章は今でも時々読み返したくなる。

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』が映画公開したりと、今まで直角さんを知らなかった人たちにも知られようになってきたのでは。そんなタイミングで新しい本が発売された。

『デザイナー 渋井直人の休日』という本。

 

デザイナー 渋井直人の休日

デザイナー 渋井直人の休日

 

 

 

あらすじを見てみると、

2015年に刊行した『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』が映画化され(20179月公開)、いま、もっともノリにのっているコミック界のニューレジェンド、渋谷直角の最新作!不惑を越えてなお、煩悩に悩むサブカル中年・渋井直人がおりなす、ペーソス溢れる日常を描いたショートストーリーの連発は、同世代だけでなく、広く読む者の心を突き刺すこと必至!ファッション誌『otona MUSE』にて連載中のコミック、待望の書籍化です。

 

この漫画が『otona MUSE』に連載されている驚きがすごい。

otona MUSE』は、モデルの梨花さんがメインのモデルに起用されている人気雑誌。

GINZAなどのように大人のモードを謳うのでなく、大人のモテ服を謳うイメージ。

読者層も梨花さんがメインモデルに起用されていることからもわかるように、サブカル女子というよりは、大人の女性が購買層かと。その雑誌、直角さんの漫画が連載されているとはかなりの驚き。

いや、『otona MUSE』だから、ギリギリ大丈夫なのかな。

 

内容はというと、

まず表紙を見ると、ソニア・パークさんの著書『SONYA’S SHOPPING MANUAL』を連想する装丁。

フォントに、タイトルの文字が金色、そして帯がタイトル下まである。

 

SONYA’S SHOPPING MANUAL 1 TO 101―ソニアのショッピングマニュアル〈1〉

SONYA’S SHOPPING MANUAL 1 TO 101―ソニアのショッピングマニュアル〈1〉

 

 

ページを開いて1コマ目のひげ剃りのシーン。

ウェス・アンダーソンの映画が好きな人はすぐわかってしまうキャラや雰囲気が醸し出されている。

その後に、ワラビーのくだりでウェス・アンダーソンに触れるし、そもそもひげ剃りのシーンから、

ビル・マーレイ感がしてしょうがない。

 

と、1ページだけで語れきれないギミックがかなり埋め込まれている。

内容もそうだがその読み解きもおもしろくて、2度おもしろい。

 

ただ、こうやって渋井直人が過ごしているライフスタイル、直角さんが描くギミックがわかってしまうということは、あなたも渋井直人と変わらないですよということ。

読みながら、僕自身も自分の未来を見ているかのようで、他人事ではない。。。。

今後の展開が気になるけど、自分の未来が描かれているようで少し怖さもある。

朗読劇『往復書簡 初恋と不倫』 -不帰の初恋、海老名SA-

往復書簡 初恋と不倫

ドラマ「カルテット」の記憶も新しい坂元裕二さんによる朗読劇、

『往復書簡 初恋と不倫』 -不帰の初恋、海老名SA-を観てきた。

僕の友人たちからも一気読みしてしまったと評判の良い『往復書簡 初恋と不倫』。

「カルテット」が放送中にも、行間案件やレモン論争などキラーフレーズを生み出して、

今も雑談で話してしまうほど、心にささっている。

 

『往復書簡 初恋と不倫』は、朗読劇として上演されていたものだったが、それが今回書籍化された。

再演となる今回のキャストは太賀 さんと松岡茉優 さん。

 

放課後の教室だろうか。生徒の話し声。外ではバッティングの音がする。

そんなSEで包まれながら、観客は着席する。

 

そんな観劇をしたことはないが、上演前までのSEって結構大切だなと思う。

音楽を使うにしても、どんな意図なのか、それともテンションなのかと、

こちらが考えすぎてしまう。

 

読んでない方のために、あらすじだけ紹介をすると、

「わたしはどうしても、はじめのことに立ち返るのです。団地で溺れたわたしと同い年の女の子のこと。わたしだったかもしれない女の子のこと。」

初恋の人からふいに届いた手紙。

時を同じくして目にしたニュースでは、彼女の婚約者が運転する高速バスが横転事故を起こし、運転手は逃走中だと報じている――

 

というストーリー。

 

冒頭から嫌悪感を表す強めな言葉と共に、張り詰めた空気で劇は始まる。

普通であれば、こんなトンマナで話が進んでいくのかなと思うが、

そこはさすが坂元さん。思わずくすっとしてしまうセリフと共に、

主人公たちと共に徐々に観客がほぐされていく。

 

本にはない、セリフの間や声の震え。

本来、朗読劇用に描き下ろしたものなので、観ると本にはない意図というのが伝わってきた。

 

贅沢を言うと、本を読まず先に朗読劇から出会いたかった。

その本がなければ、存在したい知らなかったのだけど。

すごいはらはらしてしまう部分など、すでに本を読んでしまっていたから、

臨場感なく、少し一歩引いて観てしまったのが、とても悔やまれる。。

まぁ、自分の性格のせいだけれど。

 

最後に、友人がとてもおもしろいことを言ってくれた。

この公演のチケットは一人一枚しか買えない。

それは、演出上の意図かなと。

 

確かにこの話は、往復書簡。ここで交わされる言葉たちは、

本人同士が面と向かって話している訳ではなく、

手紙、もしくはメールで綴られている言葉たち。

交わらない主人公たち。観客も知らない人が隣で観劇することで、

なんらかの寂しさなどが、もしかしたら生まれたかもしれない。

 

uh-huh

予定のない土曜日に映画を観に。

今回は、ジム・ジャームッシュ監督の「PATERSON」。

 

ジム・ジャームッシュトム・ウェイツジョン・ルーリーを教えてくれたし、作品もほぼ観ているはずだ。学生時代、ジム・ジャームッシュが好きだというと洒落た感じに思われるということで、観ていた部分もあるが、出会って本当に良かったと思う。ただ、最近の作品がそこまで好みではなかったので、映画館に観に行くか迷っていたが、このPATERSONに関しては、観に行ってほんとに良かった。

 

ストーリーは

パターソンに住むパターソンという名の男の7日間の物語

ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)。彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをして始まる。いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。そんな一見変わりのない毎日。パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。

というはなし。

 

ほんとにこのようなストーリー。

あっというような結末がなどは待っておらず、充分すぎるほど適切に解説している。

ただ、この映画の大切なところは、その事実が意味することの周縁にあること。

 

本編の中で、度々登場する詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの詩にこんな詩がある。

"THIS IS JUST TO SAY" 

 

I have eaten 

the plums

that were in

the icebox

and which

you were

probably

saving

for breakfast

Forgive me

they were delicious

so sweet

and so cold

奥さんが好きだと言って、映画ないでも朗読されるのだけれど。

 

これをただの文章にしてしまうと、

朝、冷蔵庫に入っていたすももを食べた。妻が残していたかもしれない。

といった風に味気のない内容になってしまう。

ただ、詩という一遍になると、こんなにも事実が意味することの周縁にたくさんのことが存在していることがわかる。

映画も同じで、ストーリーの文章の周縁にあることが、大事なことで、

そして、それをちゃんと掬い取れることが何よりも大事。

なんだか多幸感のある余韻を残してくれる映画だった。

妻文学

松尾スズキさんの「東京の夫婦」を手に取ってから、夫婦話づいている。

 

最近読んだのは、「働けECDと「私の絵日記」

働けECD わたしの育児混沌記 (ミュージック・マガジンの本)

働けECD わたしの育児混沌記 (ミュージック・マガジンの本)

 
私の絵日記 (ちくま文庫)

私の絵日記 (ちくま文庫)

 

の二冊。

 

「働けECDは、今年読んだ本で間違えなく3本指に入る「家族最期の日」や「かなわない」を書いた植本一子さんの最初の頃の作品。

そして、働けECDの中で植本さんが紹介していて知った、つげ義春さんの奥さんである藤原マキさんの「私の絵日記」。

 

両方とも、まぁここまで隠すこと無く生活をつづるなと。

「働けECD」では、その日の支出や月収の事も書いているし。

「私の絵日記」では、つげさんのうつ病に触れている。

 

2つの夫婦の共通点は、どちらもクリエイターということ。

植本さんは写真家でECDさんはラッパー。そして、藤原さんは状況劇場の役者でつげさんは漫画家。

普通の人にとっては、淡々とした日々かもしれない。

でも淡々な日々を他人に見せるとなると、自意識が働いてしまい、

少しでも飾りたくなる、そして逆に書くことがないと筆を折ってしまう。

 

だけど、2人は違う。

その日あった自分の感情もそのまま吐露するのだ。

もちろん、多少の抑制はあると思うけど、文字のままベースとしては赤裸々な日記。

文面だけ見ると、決してうまくいっている夫婦ではない。

でも、それぞれの形でしっかりと愛し合っているんだなと節々に感じる。

ただ、一つ忘れてはいけないのは、それぞれの筆者の主観で綴られた本であるということ。

「私の絵日記」のあとがきにある、つげさんの言葉にはっとする。両者ともしっかり言い分はあるものだ。

 

塩セット

あぁ、今日はやんちゃしちゃおうかなっていう日に食べに行くお昼ごはん。

それが、参宮橋にある中華料理屋「昇龍」の塩セット。

 

「塩ラーメン+半チャーハンのセット」のことで、まさしくワンパクなご飯。

近所のブルーカラー、ホワイトカラーの男性諸君に愛されて止まないセットだと思う。

 

味は決して最高に美味しいというわけではない。

もし汗をかかず、冷房が効いた環境で働いた後に食べに行くと、塩味がつよいと感じるかもしれない。

でも、ここは町の中華屋さん。そうであってこそ正しい。

そして、ご夫婦でやられているのだが、それもまた最高の塩梅。

*おばあさんも数年前でいらっしゃったが。

すこし無骨な親父さんとエプロンがよく似合う気遣いが半端ない奥さん。

時々、親父さんのお母さんへの口調厳しすぎないかと、はらはらしてしまうが、

それもまたご愛嬌。

忙しいランチタイムを二人で切り盛りするチームワークは抜群だし、

ふたりの働きっぷりを見たいから半分お店に行っているようなものかもしれない。

 

もちろん餃子も美味しいし、夜だけのメニュー「焼きラーメン」も美味しい。

中瓶・メンマ・餃子・焼きラーメン

という最高のコースが食べれた日にはもう最高。

 

BRUTUSでも町の中華特集があったが、歴史がある町の中華屋さんもいい趣だが、

こういう場所も大切にしていきたい。

 

tabelog.com

東京の夫婦 | 松尾スズキ

近頃、結婚に興味がある。

気になる人ができたせいかもしれないが、今までの自分には見られなかった心境の変化。

そんな最中に、

東京の夫婦 | 松尾スズキ

を読んだ。

 

東京の夫婦

東京の夫婦

 

 

 

雑誌GINZAでの連載をまとめた一冊で、松尾さんの2回目の結婚、相手は20歳年下と、いろいろと思うことがあるだろう結婚の日々が綴られている。

読み終えた今日は、松尾さんのお気に入りの紅生姜天そばを富士そばに食べに行ってしまった。

東京の夫婦というタイトルの通り、いわゆる田舎、大都市圏以外では、このような結婚もしくはパートナーシップが容認されづらいだろうことから、東京の夫婦というタイトルにしているのかもしれない。

子どもは作らない、そして年の差婚という字面だけでもなかなか難がありそうな気配が漂うが、それはまわりが勝手に思うこと。文章で触れる限りは、とても素敵なカップルなんだろうなと思う。

なんで、この本に琴線が触れたかというと、子どもをつくらないという決め事にとても共感したから。私自身も結婚には興味があるが、自分の子どもを持つことに興味がないし、ないから想像もあまりしたことがない。人の子どもをあまり可愛いと思えず愛せない、そんな自分の子どもも同じように愛せる保証などないし、どうなるんだろうという不安しか正直ない。それがわかりやすくこの本では名文化されていて、とても共感した。もちろん全てのエッセイ、独特なゆるさがある素敵なエッセイたちになっている。

 

こうして夫婦の話を読んでいたら、

川本三郎が書いた、"君のいない食卓"を思い出した。

 

君のいない食卓

君のいない食卓

 

 

以前読んで、なぜかずっと心に残っている本で、タイトルから分かるように"君"(川本さんの奥さん)が亡くなり、食事を通じて喪失感を綴った一冊。

久しぶりに読み直して見ようかな。